ねりなりねるな

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ブラッドハーレーの馬車を一気読みしたら感情の着地点を見失った

ネタバレはないですが人によってショッキングな内容があるので注意してください。

 

ブラッドハーレーの馬車

沙村広明氏による漫画。全1巻。


少女達の残酷な運命を様々な人物の視点から描いたオムニバス形式の作品。

 

大体のあらすじ
孤児院で暮らす少女達は、毎年孤児を何名か引き取っているという「ブラッドハーレー家」の養女として選ばれることが憧れであり夢だった。
しかしそれは全くの嘘で、孤児達が実際に引き取られる先は高い塀に囲まれた刑務所であった。
孤児達は囚人の性欲求・破壊衝動の捌け口として入れられ、その生涯を終えていたのだった。

 

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大体こんな感じ。(画像:いらすとや)


あらすじからキツイ

良い作品だけど救いがない為に勧める人を選ぶ。
絵も上手いし構成も良いので、うまい漫画よる後味の悪さを楽しめるタイプの人間にはオススメの作品だと思う。

 

オムニバス形式なので各話ごとに新たな登場人物が出てくるのだが、世界観を把握すればするほど「この先この人物に救いのある展開など待っていないんだろうな」ということが嫌でも察せていくのがツラい。

 

この作品は1.2話と3話以降で後味の悪さが少し違うように思う。


1話、2話は直接的で残酷な描写が多い。
囚人達に囲まれる少女や、その少女が暴行によって衰弱していく様など、目を覆いたくなるような描写が多々ある。

そこへの胸糞の悪さが割と大きい。

 

しかし3話以降は、1話と2話であったような直接的なシーンは全くと言っていいほどなくなる。

その理由は、1話と2話は刑務所に入れられた孤児達視点の話なのだが、3話以降はその孤児達を取り巻く様々な人間視点での話がメインとなってくるからである。
そのため、孤児達視点ではわからなかった世界の実情、残酷な制度がまかり通っている理由などが徐々に浮き彫りになってくる。


そこからが個人的にはかなり面白い

「そうくるのか」の連続で登場人物が嵩むたびに後味の悪さだけではなく面白くなっていった。


刑務所に送られる孤児達も3話以降は直接的な暴行シーンなどはなく、主に描かれるのは「刑務所に送られるまでの出来事」である。
そして共通して出てくるのが「ブラッドハーレー家のお屋敷行きの馬車」である。

 

刑務所に入る孤児達は全員その馬車に乗るのだ。

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様々な少女が、様々な思いを抱えながら馬車に乗りこむ。少女たちは皆行く先が地獄だとは夢にも思わず、新天地への期待と不安を抱いている。

読者はその馬車の本当の行き先を知っているし、その先で行われていることも知っているのだが、胸に期待を膨らませて馬車に乗り込み出発する彼女達の背を見送ることしかできないのだ。

彼女達のその後がどうなったのかは描かれない。描かれないが、知っている。

この後味の悪さ、なんとも言えなさがたまらない

そんな漫画でした。うまいまとめ方が思いつかなかった。

 

以下蛇足

漫画の内容には関係ないけど作者のあとがきと作品のギャップがありすぎて感情がめちゃくちゃになりました。


例えるならダンサーインザダークを観た後のエンドロールでコミカルなNG集が流れ出したみたいな感じ。

読了後、様々な感情が頭を巡り、このなんとも言えない気持ちの着地点を探したいという思いですぐあとがきに飛びついたんですけど、結果感情が着地点を見失って墜落しました。

でもこのあとがきのお陰で読了後すぐにこの文を書けたみたいなところがあるので結果的に良かったです(?)

 

つまるところブラッドハーレーの馬車、良い作品でした。

あんまり勧められないけど、良かったら結構色んなところで試し読みできるので読んでみてください。共に墜落しましょう。

 

おわり

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

以下ネタバレで、各話の感想殴り書き

既読の方は良かったら読んでください。

 

1話 見返り峠の小唄坂

どう考えてもエロくはないよなあ……(あとがきを見て)

最初だし軽いジャブと思いきや全体で見ると重い右ストレートの部類だった話。

ラストの「何ちょっと良い話風にしとんねん」は1話だから許せたことだと思う。

 

2話 友達

初見では「なるほどなあ…」って感じだったけど、全部読んでからこの作品の中ではエグい部類だったことがわかり、軽くトラウマ。

解釈のキーとなるのは壁の向こうの友達であるプリシラだと思う。

プリシラに「一週間生きていればブラッドハーレー家に行ける」ことを知らされたステラは6日間生きたあと死んでしまう。

しかしその後の展開で6日間生きたことは異例中の異例だったことがわかる。

果たしてプリシラは本当に一週間の話を聞いていたのか?

彼女は袖を切り裂かれたことを本当は許しておらず、ステラを生かそうとしていたのはのちに出てくる「希望を持たせて耐え難きを耐えさせる」ためだったのか?

それとも本当にステラにただ長生きしてほしくて励ましていたのか?

そもそもプリシラというのはステラの罪悪感が見た幻覚だったのか?

全部ありそう。

「連日独り言のように呟いていた」という文章だけじゃ本当にプリシラは居たのかもしれんし……。

なんにせよって感じですね…はい…。

 

3話 ある追憶

「え〜〜こんな感じで少女が酷い目に遭っていくのかな〜〜とすればこの漫画の終着点はどこなんだ????」と思っていたところのこれ。

うわ〜〜〜〜辛〜〜〜〜〜えでも良〜〜〜〜になった話。「あ、実際に養子になるパターンあるんだ」ってなった話でもある。

この話だけ読んでも良さそうレベルでまとまりが綺麗なんだけど、やっぱ1話2話を読んできているからこそフィリパの今後を思ってめちゃくちゃやるせない気持ちになるんだよな。

 

 

4話 家族写真

一番か二番目に好き。刑務所の雰囲気がショーシャンクの空にっぽいなと思った(私は刑務所系の話をこれくらいしか観たことないのでそう思ってるだけかもしれないし、本当に参考にしてるのかもしれない)

囚人目線の話というのが初見は意外だった。

クリフ、お前は知りすぎた……。

娘の写真が出てきた時点で嫌な予感がしてたんだけど、暴動シーンは悲しくも好き。トマス目線で逆さになった親子が倒れていく描写は印象的。

「このまま二人で死ねたのはいっそ良かったんじゃないか」とまで思ってしまった。本当に良いのかはわからない。

なんか署長っぽい人が謎の眼鏡の若いイケメンなのだけ違和感あってウケた。幹部(?)なのかもしれん。

 

5話 絆

全体的にまとまりが綺麗な話。3話のある追憶と同じでこれだけ読んでも良さそうの部類。

選ばれた人を妬んだみたいなのは2話の友達と通ずるところがあるんだけど、妬みというよりかは「彼女は初めからそのつもりで孤児院に来ていた」というのが違くて良かった。

手紙で告げられる真意。彼女とその母親にとってはブラッドハーレー家に行くことが人生の全てで、母親はルビーを貴族の娘にする為に自殺をするし、ルビーも友に手をかける。

数々の犠牲の上に見事成功したそれが、地獄への道標だということも知らずに。

やるせねえ〜〜〜〜。

時代の被害者だよ彼女たちは。(まあ貴族の娘になりたいからといって無理矢理な手段取りすぎでは?というアレもあるけど……)

 

6話 澱覆う銀

読み方わからなくて調べた。おりおおうらしい。

4話の家族写真と同じくらい好きな話。

1.2話と比べると本当に同じ作品内で描いた???ってくらいなんか違う。

それと同時に5話までハッピーエンドを諦めていた人格が「うわ〜〜〜〜ハッピーエンドであってくれ〜〜〜」と暴れた話である。

結局バッドエンドなんですけど・・。

もうアービング氏が脱出を企てた辺りから「いやいやいや無理だろ出れるわけないじゃん!えーっでもマジで出るの!?本気で出ようとしてんの!??うわ〜〜成功してくれ(無理だろうけど)〜〜」みたいなぐちゃぐちゃの感情になってすげーパラ読みしてしまった。

一回最後まで読んでからもっかい戻った。後悔している。

アービング君」の後の署長と銃を見たアービングの顔がマジで忘れられない。

いつもシーツで首を絞めていたリラが、最後にアービングから受け取ったマフラーで首を強めに締めるのがかわいい。悲しい。

この話だけやっぱちょっと他とベクトル違うよね。

本当に"友達"と同じ作品ですか?(そうだよ)

 

7話 鳥は消えた

おおおおおお前も馬車に乗ってしまうんか〜〜〜〜い!!!!!

となった作品。

刑務所に行くレスリー見たくなさすぎるだろ。やめてくれよ・・・・。

今までもこんな風に真実にたどり着いた養女がいたんだろうなあ…。

 

8話 馬車と飛行船

綺麗にまとめたよ♪みたいな話。

「え、これ後1話で終わるの???ブラッドハーレーはどうなるんだ???」って思ってたから、時が経って戦争が始まって〜の説明を聞いて「なるほど」となった。

1話の見返り峠の小唄坂に出てきた女の子も出して綺麗な感じにまとまってるし、「なるほど」の回だった。

ブラッドハーレー側の人の心情が描かれているけど、この辺りはいやまあう〜んって感じだった。

実際に被害に遭う側の人間と貴族側の人間じゃ思うことは違うんだなと思った。当然だけど。

結局ラスト2ページで描かれている通り、実際の多数の被害者を出したこの計画も、世界的に見ればこんな感じの文章でまとめられてしまうんだよなって、なんかうまく言えないけど…(マジでうまく言えてないな…)

今まで実際に密接に関係してきた人間の動向ばかり見ていたから、ラストのオチがすごく客観的なのに今までとのギャップを感じて着地点を迷った(良い意味で)。

そこからは上に書いた通りあとがきで墜落した。

 

オムニバス形式っておもろいな〜〜(どういうまとめ方?)

 

おわり